透過型電子顕微鏡(TEM)の試料作製法

ここでは、当センターで日常的に使用している試料作製法を掲載しております。

試料作製

1.組織の切り出し
新鮮な組織を素早くエタノールで脱脂した安全剃刀で1mm角ぐらいにして前固定液に入れる。
細切に時間がかかるようようであれば先ず組織を固定液に入れるか固定液を注いで細切を行う。細切の際は組織を潰さないよう注意する。
2.アルデヒド系前固定
細切の終わった試料はアルデヒド系による前固定を行う。前固定液には、グルタールアルデヒド液もしくはパラホルムアルデヒドの混合液を使用する。グルタールアルデヒドは蛋白質が良く固定され、脂質にはほとんど固定効果がない。
パラホルムアルデヒドはグルタールアルデヒドより分子量が小さく、組織への浸透が速いので、通常灌流固定の時グルタールアルデヒドと混合し、0.5~4%溶液として使用される。2.5% Glutaraldehyde-2% Paraformaldehyde-0.1M Phosphate Bufferで1~2時間(4℃)固定をする。
3.リンス(RINSE)
前固定が終了後、リンス液(4℃)で10分、2回洗浄する。
4.後固定(POST FIXATION)
1%四酸化オスミウム液で2時間(4℃)固定する。オスミウム液は有害なのでドラフト内で作業する。
5.脱水(DEHYDRATION)
50%-70%-80%-90%-100%*-100%*のエタノールで各15分~30分、揺り動かしながら脱水を行う。液交換時には組織を乾かさないようにする。(*:モレキュラーシーブ入り)
6.置換(SUBSTITUTION)
QY-1に15分×2回、揺り動かしながら浸透させる。QY-1とエポキシ樹脂の等量混合液に一晩浸透させる。
7.包埋(EMBEDDING)
翌日、エポキシ樹脂に6時間浸透させる。プラスチック包埋板(またはゼラチンカプセル)に新鮮なエポキシ樹脂を満たし、組織を入れて60℃の恒温器で3日間重合する(場合によっては37℃から段階的に上げていく必要がある)。

≪電子顕微鏡試薬の調製 ≫

〔前固定液〕グルタールアルデヒド固定液
(1) 2.5% Glutaraldehyde - 0.1M Phosphate Buffer (pH7.4)
25% Glutaraldehyde 1ml
0.2M Phosphate Buffer 5ml
蒸留水 4ml
(2) 2.5% Glutaraldehyde - 2% Paraformaldehyde - 0.1M Phosphate Buffer (pH7.4)
25% Glutaraldehyde 1ml
10% Paraformaldehyde 2ml
0.2M Phosphate Buffer 5ml
蒸留水 2ml
(1)液または(2)液を使用して、1~2時間(4℃)で固定する。廃液は専用容器に捨てる。
〔後固定液〕四酸化オスミウム固定液
1%OsO4 - 0.1M Phosphate Buffer (pH7.4)
2% OsO4 10ml
0.2M Phosphate Buffer 10ml
2% 四酸化オスミウム水溶液調製
市販の四酸化オスミウムはアンプルとして封じ込まれている。アンプルに傷を付け専用の試薬瓶に入れ、蒸留水を必要量加えて2%の水溶液とする。アンプルと試薬瓶は充分に洗浄し、洗浄したアンプルには直接手で触れないようにする。この試薬は体に有害なので作業はドラフト内で行い、ガスを吸い込んだり液を体につけないよう注意する。試薬瓶はネジ付きのプラスチック製の容器(図1)に入れて冷蔵庫(4℃)に保管しておく。
 ※廃液は専用容器に捨てる。


図1. 試薬瓶と試薬瓶を入れる容器

〔緩衝液〕 0.2M Phosphate Buffer (pH7.4)
0.2M Phosphate Buffer液
インスタントのリン酸緩衝液(20倍濃縮液)(図2)50mlを蒸留水で希釈して全量を333mlとする。
〔リンス液〕
0.2M Phosphate Buffer 50ml
蒸留水 50ml


図2. インスタントのリン酸緩衝液

≪エポキシ樹脂の調合≫

直示天秤にビーカーを載せMNA (硬化剤) 、EPON812、DDSA (硬化剤) の順で計量する。気泡を入れないようにスターラーで攪拌し、DMP-30 (加速剤) を加えながらさらに攪拌する。
硬さは硬化剤 (MNA、DDSA) の比率で決まりMNAが多ければ硬くなる。当センターではMNA:DDSA=4:1、エポキシ当量150、A / E比 0.65を使用している。


図3. 樹脂の計量

A / E = 0.65
WPE
(エポキシ当量)
  MNA : DDSA
4 : 1
150 MNA 33.40 16.70
EPON812 54.10 27.05
DDSA 12.50 6.25
全量   100.0(gm) 50.0(gm)
DMP-30 :1.5%

支持膜

ジクロルエタンで希釈した1.5%フォルムバール液を角型標本瓶に用意し、その中に清浄したガラス板を浸し、モーターを使用して定速で引き上げる(図4)。ジクロルエタンが揮発してガラス板にフォルムバールの薄膜ができる。ガラス板周囲の稜線に沿って楊枝で擦り、大型シャーレに蒸留水を用意した水面にガラス板を静かに押し込むとフォルムバールの薄膜がガラス板から剥がれて水面に浮かぶ。その上にグリットを数十枚置きステンレスメッシュ台でグリットとフォルムバール薄膜を水面と平行に押し込みようにしてステンレスメッシュ台を反転させるとグリットが膜を被ってステンレスメッシュ台にすくい上げられる(図5)。


図4. ガラス板引き上げ

図5. 大型シャーレとメッシュ台上のグリット

カーボン補強

カーボン補強は真空蒸着装置、カーボンコーターを利用し、電極にカーボンファイバーを取り付け(図6)、その真下にフォルムバール膜のついたグリットを置き、真空中で電流を流すとカーボンファイバーが白熱高温となり蒸発粒子が堆積してカーボン薄膜ができ、電子線照射に強い膜となる。


図6. カーボンファイバー取り付け

支持膜の親水化処理

水に浮いた超薄切片を水面下からすくい上げる時、疎水性のある支持膜の場合、グリットを切片に近づけると切片が逃げてしまいすくうことができない。カーボン膜にその傾向が著しく補強したグリットは親水化が必要である。
親水化処理には金属コーターを使用し、金属ベースの上にグリットを置き(図7)、真空中でその金属ベースとアルミ電極間に400Vの交流を加えるとグロー放電が起こり、そのグロー放電によってグリットが親水化される。
親水化処理をやり過ぎると扱いにくくなるので放電時間は1~2秒ぐらいが適当である。不足した場合や親水効果が落ちてきた時は再度やり直す。


図7.金属ベース上のグリット

超薄切片法

≪ガラスナイフの作製≫

ガラスナイフメーカーで6×25×400mmのガラスナイフ用ガラス棒で25×25mmの正方形を作り、その正方形を三角に割り、テープで枠(ボート)を付けテープ下端に水漏れ防止のマニキュアを塗って厚切り用ガラスナイフとする。
ガラスナイフは刃先の左側1/3ぐらいが良好部分であり、ぶつけたり、刃先には触れたりすると使用不可となる。

≪トリミング≫

エポキシ樹脂で包埋した組織片は実体顕微鏡下またはミクロトーム本体に取り付けたままで不要の部分を切り落とし、薄切すべき面を約1×1mm以下とする。場所選びのために広い面を出す場合もあり、その時は厚切り切片を作りトルイジンブルーで染色し、目的場所を確認した上で再度トリミングをする。

≪準超薄切(厚切りとトルイジンブルー染色)≫

トリミングしたエポキシ樹脂ブロックをミクロトームに取り付け、ガラスナイフで面出しをする。
水さしで蒸留水をボートに満たし刃先の水面が白く光るくらいに水量を調整して、厚切りで約1umの切片を得る。その切片を白金耳ですくい、予めスライドガラスに蒸留水を滴下しておいたところに白金耳を接触させ厚切り切片を載せる。
60~70℃にセットして温めておいたホットプレート上で十分に乾燥する。
乾燥が終わったら1%トルイジンブルー染色液を注ぎ加温しながら染色する。液が乾いて周囲が少し金色に見えたら、水洗いをして乾燥し、光学顕微鏡で目的場所の確認をする。

≪超薄切≫

面出し終了後、ダイヤモンドナイフに変えて超薄切を行う。
ナイフを変えるとブロックとナイフの平行が変わるので再度平行調整して、ナイフを可能な限りブロックに近づける。
WINDOW、切削スピード、厚さの設定、蒸留水のメニスカスの調整を行った後、超薄切を開始する。
切片は水面に浮かび、斜めから光を当てると干渉色を観察することができ、その色がシルバー(60~90nm)になるように厚さをコントロールする。
水面に浮かんだ切片をグリットにすくい、直接または余分な水を硬質の濾紙で吸い取り、グリットホルダーに納める。

nm = 1/1,000,000 mm

≪電子染色≫

組織は軽元素でできているため、超薄切片そのままではコントラストが低く観察し難い。そこで、ウランや鉛の重金属を蛋白や脂質に付けて散乱コントラストを増す染色処理が必要となってくる。

【電子染色の方法】
ビニールチューブで作ったホルダーにグリットを挟み、ホルダーごと1%ウラン染色液に30~60分間(室温または40℃)浸し、電子染色を行う。その後、蒸留水を入れたビーカーを2つほど用意し、蒸留水中でチューブを上下に振りながら水洗する。
水洗が終わったら水切りをして、鉛染色液に移し3~5分間(室温)染色する。同様に水洗、水切りをして乾燥する。
ウラン染色液は反復使用し、鉛染色液は回収廃棄する。