走査型電子顕微鏡(SEM)の試料作製法
ここでは、当センターで日常的に行われている試料作製法を掲載しております。
洗浄と試料摘出
試料表面にあるゴミや付着物はSEMによる表面観察に支障があるので、事前に取り除いておく。乾燥した組織表面にあるゴミはブロアーで吹き飛ばし、血液、粘液などは緩衝液中で強く振盪する。
0.2M Phosphate Buffer | |||
インスタントのリン酸緩衝液(20倍濃縮液)50mlに蒸留水を加えて全量を 333mlとする。 | |||
緩衝液 | |||
0.2M Phosphate Buffer | 50ml | ||
蒸留水 | 50ml | ||
Sucrose | 3.3g |
切り出し
両刃カミソリをエタノールで脱脂し、半分に折ったものを用意しておく。
切り出しはデンタルワックス板、厚手のビニール板上で組織を乾燥させない様に緩衝液または固定液を滴下しながら、目的の場所を2枚の刃で左右に引くようにして2~5mm角に切り出す。
大きなままで観察したい場合は、後固定、脱水、乾燥が不十分となりやすく収縮、変形、チャージアップの原因となるので、細長くするか薄くする必要がある。
軟らかい組織は、摘出前にグルタールアルデヒド固定液を滴下し、ある程度硬くなってから摘出する。肺組織は、固定液中で浮く可能性があるので洗浄液中でアスピレーターか真空ポンプで軽く脱気する。
アルデヒド系前固定
切り出しの終わった試料はアルデヒド系による前固定を行う。SEM用前固定液としては、グルタールアルデヒドによる固定が一般的であるがパラホルムアルデヒドと混合する場合もある。グルタールアルデヒドは蛋白質が良く固定されるが、脂質にはほとんど固定効果がない。パラホルムアルデヒドは、グルタールアルデヒドより分子量が小さく組織への浸透が速いので、通常、灌流固定の際にグルタールアルデヒドと混合し0.5~4%溶液として使用される。
(1) 2.5% Glutaraldehyde ‐ 0.1M Phosphate Buffer (pH7.4) | |||
25% Glutaraldehyde | 10ml | ||
0.2M Phosphate Buffer | 50ml | ||
蒸留水 | 40ml | ||
(2) 2.5% Glutaraldehyde ‐ 2% Paraformaldehyde ‐ 0.1M Phosphate Buffer (pH7.4) | |||
25% Glutaraldehyde | 10ml | ||
5% Paraformaldehyde | 40ml | ||
0.2M Phosphate Buffer | 50ml | ||
(1)液または(2)液を使用して、1~2時間、4℃で固定する。 | |||
※Glutaraldehydeは専用容器に捨てる。 |
オスミウム後固定
四酸化オスミウム(OsO4)結晶はすぐには溶解しないため、あらかじめ2~4%の水溶液として準備しておく必要がある。保存には二重摺り合わせ褐色ビンを使用し、冷蔵庫(4℃)で保管しておく。
強い刺激臭があるので、ドラフト設備を利用し目や皮膚などへの接触、蒸気の吸入に十分注意する。
組織への浸透性はあまり良くなく、表面からせいぜい1mm弱と言われる。リン脂質は良く固定される。
1% OsO4 - 0.1M Phosphate Buffer (pH7.4) | |||
2% OsO4 | 10ml | ||
0.2M Phosphate Buffer | 10ml | ||
1~2時間、4℃で固定する。 | |||
※ OsO4廃液は専用容器に捨てる。 |
脱水
エタノールの上昇系列、すなわち50%→70%→80%→90%→無水100%*→無水100%*にて各々15~30分間揺り動かしながら脱水する。
(*:モレキュラーシーブ入り)
試料が大きい場合は、各々の時間を2~3倍長くする。
置換・乾燥
≪t-Butyl Alcohol(2-Methyl-2-propanol)による凍結乾燥法≫
t-Butyl Alcoholの凝固温度が25.5℃と高いことを利用して試料を凍結したまま真空中で昇華させて乾燥する方法である。
※24℃以下で凍結するので、湯煎により試薬を溶解して使用する。
1) | 脱水の終わった試料を100%Ethanolとt-Butyl Alcoholの混合液 (1:1) に15分~30分ほど室温で浸漬置換する。 | |
2) | t-Butyl Alcoholに15分~30分、2回浸漬する。 | |
3) | t-Butyl Alcoholを試料が隠れるくらいの量にして冷蔵庫で凍結させる。 | |
4) | 凍結した試料を凍結乾燥機内に運び、真空凍結乾燥する。 |
試料台へ接着
試料を導電性のカーボンテープや銀ペースト、カーボンペーストを使ってアルミ試料台へ接着する。
※銀ペースト、カーボンペーストを使った場合、室温で十分乾燥後、さらに真空装置で十分に脱ガスをする。
金属コーティング
乾燥した生物試料は導電性がないため、オスミウムプラズマコーター、イオンスパッタ装置などを使って白金やオスミウムなどの重金属を試料表面に薄くコーティングする。
SEM観察
最後におよその目安として3つほどSEMの条件設定をかかげておくので、自分の目的に合った条件で観察する。
1) 加速電圧 (1~30KV) の選定 | ||
加速電圧が低いと表面からの情報が多くなり、チャージアップは少ない。加速電圧が高くなると解像度は増すが試料内部の情報が透けた像になり、チャージアップも多くなる。 | ||
2) 照射電流の選定 | ||
照射電流はSEMの像質に大きく関与してくるので観察の目的に応じて、適切な照射電流に設定する。例えば照射電流が多くなれば、像のノイズが目立たなくなりスムーズな像になる(S/N比が良くなる)。反面、電子線径が大きくなり分解能が低下すると共にダメージやチャージアップも増す。 | ||
3) ワーキングディスタンス(作動距離)が長いと低倍率に有利。ワーキングディスタンスが短いと解像度が増すので高倍率に有利となる。 |